しかし日本人で、しかも一週間という短期滞在の新作がバンコクで経験した出来事の数々は濃いにも程がある。ソイ・カウボーイの夜から王宮周辺の仏閣観光、クローントイでメコンウイスキー祭りを経て、大歓楽街として名高いシーロムのパッポンで再びマイの元カレと大乱闘。あまりも濃いタイ旅行だが、パッポンが登場するのがソイ・カウボーイより後というのがマニアックである。通常、日本人旅行者でお姉ちゃん目当てなら、最初はパッポンに行くのが常識である。パッポンは古くから日本人向けの店が多く、10メートルほどの広い道幅の横町には日本語の看板がひしめいており、昼間はビジネス街の顔として割と閑散としているものの、夜になるとギッチギッチに屋台が出店して洋服やカバンから裏ビデオまで、ありとあらゆる商品を売り捌くエネルギッシュなエリア。ゴーゴーバーの数も多く、ヤワラー(中華街)の娼婦が目指すゴール地点がパッポンのゴーゴーバーなのだという話を『バンコク楽宮ホテル』という小説で読んで知ったぐらいのメッカである。
しかし、そんな観光地化されたゴーゴーバーに嫌気がさし、初心な出会いを求める旅人にとっては、ソイ・カウボーイが熱い注目を集めているという。そんなニッチな情報をエピソードに盛り込む「ラブジャンキー編」は、海外エピソードが極端に少ない『ミナミの帝王』の中でも、とびっきり異色の、なおかつガイドブックとしても機能するぐらい細かく耳寄りな情報に彩られた素晴らしいエピソードである。そして、いよいよ帰国の時を迎え、タイ人との絆を銀ちゃんからの借金が絡む怒濤の展開が始まる。ますます「ラブジャンキー編」から目が離せないのである。
そして最後に最も気に入った台詞を挙げて、原稿を締めさせていただく。
「タイの男はメコンウイスキーじゃ~!」
写真提供/植地毅