立野真琴インタビュー -1-
【プロフィール】
 立野真琴、本名。富山県出身。血液型は、たぶんA型。星座はおひつじ座。『ガラスの仮面』の美内すずえのアシスタントを経て、『花とゆめ』の『ゆられてたまごBoys(白泉社)』で少女マンガ家デビュー。今年、マンガ家歴二十周年を迎える。


秋の夜もふけゆく、神楽坂のとある料亭の個室にて。お酒をしっとり傾けながら、アダルトに、マンガ家人生二十年のエピソードの、ほんの一部をかいまみせてくれたひととき――。2時間30分のロングインタビューを貴女に。

男同士に抵抗ナシ
―― 最初は少女マンガを描かれていた立野真琴さん。いつごろからBLを描かれていたんですか?
立野:実は趣味で、デビュー前から同人誌をずっとやっておりました。だいたい二次創作(パロディ)なんですよ。
―― 一番最初の同人誌はなにを?
立野:最初は『機動戦士ガンダム(以下、ガンダム)』ですね。ファーストですよ!
―― 同人誌はずっとやってらしたわけですか?
立野:そうです。だからそれに関しては趣味の範囲で、コソコソとずっとやってて。
BLは、結局それがオリジナルになったような(笑)。
―― じゃあ、男同士に抵抗なんかあるわけないって感じですね。
立野:ないですね~。
―― なんらかの抵抗があって、それを乗り越えられたわけではないんですね。
立野:いや~全然ないんです。すみません~(笑)。
―― 少女マンガのデビューのきっかけは?
立野:高校時代から『花とゆめ』に投稿していたんですよ。いつも十位以内には入るんだけど、最高二位まで行ったんですけど、デビューできないの。
 チャート式で批評がくるんですが、キャラがたってないとかっていわれても、投稿中には理解できないんですよ。で、行きづまってしまったところを担当さんに、「高校卒業したらどうするの?」って。「マンガ家にはなりたいけど、このままではどうでしょう?」とお話をしていたときに、美内すずえ先生か和田慎二先生のところに紹介ができると。それで、二年間の契約で、美内先生のアシスタントになりました。
 二年間投稿をやめていたのが、逆に良かったのかな? 二年目の、そろそろアシスタントの契約が切れる時期に、アテナ大賞(『花とゆめ』の大賞)に出したらひっかかったんですね。それがデビューのきっかけです。
―― アシスタント経験で、なにかをつかんだんですね。
立野:美内先生は人の作品に口をだす方じゃないんですよ。ネームも見ていただいたんですけど、的確に、「ここがダメなんじゃないかな」とは言ってくださるんですけど、どうしたらいいとはおっしゃらないんです。だからきっと、お手伝いをしているうちに、なにかを得たんだと(笑)。
―― 余談ですが、『ガラスの仮面』のキャラクターで、好きなキャラクターはいますか?
立野:真澄様と聖さん(笑)。聖さんが出てくるときには、みんな私がトーンを貼ったんですよ。「聖さんは私が貼っていいですか」って貼りました(笑)。


少女マンガもBLもおんなじ
―― では、『花恋』本誌で連載されている『Steal Moon』についてお聞かせください。冒頭が格闘シーンから始まってますね?
立野:これは、私の趣味が入っています。格闘ゲームの『THE KING OF FIGHTERS』がすごく好きなんです。ゲーセンにまで通いつめましたとも。一日中、ゲーセンにいる男たちに、戦いを挑んではやられて(笑)。
 担当さんに原稿をみせたときに、「格闘シーンが、かっこいいですね」って。じゃあとばかりに、「本当は、あと5枚くらい描きたいんですけど」っていったら、「やめてください」って(笑)。
―― 『青い羊の夢』では、拷問シーンもでてきますネ(笑)。
立野:痛めつけられても、こたえてないタイプは、ちょっとくらい痛めつけた方がいい。でも本当は痛いのは、あんまり好きじゃないんです。
―― ひ弱な人を痛めつけたいわけじゃないという。
立野:それはちょっと可哀相(笑)。でも私はひ弱な方が、実は芯が強かった、というのが好きなんですよ。ひ弱にみえていたけど、窮地では、そいつが一番しっかりしていて、頼りになるというのがいい。だから、逆に攻に関しては、普段はあくまでかっこよく。崩れそうになったときに、受が助けるというのが好きですね。
―― 立野マンガの極意を聞いているような(笑)。
立野:意外性が、BLの醍醐味なんじゃないかな? でも本当は、少女マンガでも、それはあると思いますよ。女の子の方が、実は強かったとかね。そうすると、読者もグッとくると思うんですよ。
 だから描くとき、私は少女マンガだからとか、BLだからとか、あまり考えてないですね。大筋は変わらないものだと思う。味つけが違うくらいかな? とくに主軸となる恋愛は、それほど変わらないと思います。
―― じゃあ、立野さんとしては、少女マンガとBLは、恋愛に関しては、あまり差はないと。
立野:恋愛に関しては、どちらも同じじゃないですか?
―― 『Steal Moon』のなかで、特に思い入れのあるシーンがあったら教えてください。
立野:そうですね、一話はかなり思い入れがあります。すごく考えて、これやってもいいのかな? どうしようかなぁと考えましたので。
―― 主人公がのぞき部屋に売られる、というアイデアはおもしろかったです。
立野:インターネットで自分の私生活を公表している人がいるという特集を、テレビでみて、それが始まりなんですけど。私には、信じられないことだったんですよ! だって二十四時間、自分の私生活をみせるわけじゃないですか。でも、それをみたい人はいるんだろうなって思って。アクセス数もすごいというので、印象に残ってた特集だったんですが、まさか、自分もBLで使うとは(笑)。


今後の展開に注目?! 『Steal Moon』
―― 『Steal Moon』『青い羊の夢』『裏通りのシキ』、この一連のシリーズは、立野さんにはめずらしく、近未来モノですね。
立野:『青い羊の夢』は少女マンガで描いた作品ですので、読者も、驚いた人は多かったんです。でも、大変熱烈に、好きだといってくれる読者もいて、編集部もつづけるか、最初は迷っていたようですが、結局は、別のジャンルをやってみよう、ということになりまして。
 『花恋』で、『Steal Moon』をやるときに、近未来モノをやってみたいんだけど、BLで近未来ってどうなんだろう? って、担当さんに話をしましたところ、よいとのことでしたので、このシリーズを選びました。ただし、のちのち聞いたところでは、担当さんの英断だったみたいですよ。どうかな? ダメかもしれないけど、やってみようかみたいな(笑)。
―― 近未来モノで、なにか影響を受けた作品はありますか?
立野:もともとSFは好きなジャンルなんです。アニメも好きですし。
―― たとえばどういう作品が?
立野:もう、『ガンダム』から、サンライズ作品はひととおり(笑)。東映系も、大好きですし。アニメは子供のころから大好きですね。あと永井豪先生も大っ好きなんですよ!!
 そのあたりに影響されて、SF好きになったんだと思います。マンガや小説ファンというよりは、アニメファンでしたね。
―― 『ガンダム』以外の、近未来モノで好きな作品はありますか?
立野:言いだすときりがないんですけど(笑)、『装甲騎兵ボトムズ』とか、『スクライド』とか、映画だと『ブレードランナー』とか。
 昔はファンタジーには興味はなかったんですけど、いまは『ハリー・ポッター』や『ナルニア国物語』もおもしろい。あとは、だれでもみれるスタンダードなSF大作映画は、ひととおり見ましたね。『猿の惑星』とか(笑)、『2001年宇宙の旅』とか。
―― 『Steal Moon』は、萩尾望都さんの『マージナル』を彷彿とさせるような雰囲気ですね。
立野:本当ですか? 光栄です。萩尾望都先生のSFは大好きでしたので。でもどちらかというと、影響はアニメや、少年マンガや、映画のほうが大きいと思います。萩尾先生の作品は、いま読み返したら、また逆に影響を受けるかもしれないですね。
―― 今回は、ビハーン(マリア)が登場して、『Steal Moon』と『青い羊の夢』の舞台がつながったわけですけど、この世界観は、いつ、どこなのか、などまだまだ謎の多い設定のように思います。これはじょじょに解けてゆくのでしょうか?
立野:時代は、あまり具体的には、考えてないんですけれど、いまから、十五年後とか二十年後とか、そうは遠くない未来。あまり時代が離れると、進化しすぎて、想像が追いつかなくなっちゃうので(笑)。だから、あまりSFっぽくない、機械ばかりではないように描いてるんですけど。
 どこかの国の、多民族のいる街という、イメージで描いています。新宿や新大久保のなれのはての印象に近いかな? 国もさだかではなく、日本ではないんです。だから、具体的に街の名前もださないで、あだ名しかだしていません。
―― SFだけではなく、ハードボイルドとミステリーをかけあわせたような雰囲気もありますが。
立野:私、ミステリーもじつは下手なりに好きなんですよ。少し仕掛けがしたい、といつも思っていて。そうだったのか! とできれば読んでる方に思ってほしいんです。ですので、じつは『Steal Moon』もひと仕掛けあります(笑)。
―― ありますか!
立野:あります!! 最後の方でわかります(笑)。何げなく、いま見ているページにも、「あッホントだ!」っていうのが一つ、だしてあります。
―― 今後の展開から、目がはなせませんね。 

(つづく)


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