立野真琴インタビュー -4-
【プロフィール】
 立野真琴、本名。富山県出身。血液型は、たぶんA型。星座はおひつじ座。『ガラスの仮面』の美内すずえのアシスタントを経て、『花とゆめ』の『ゆられてたまごBoys(白泉社)』で少女マンガ家デビュー。今年、マンガ家歴二十周年を迎える。



忘れてませんか? センチメンタル

―― 立野さんの『逆光線』という短編は、Juneっぽい作品ですね。
立野:あれも『花とゆめ』の掲載作品だったんです。学園モノで、自分では冒険した話だったんですけど。
 それまでは、わりと明るくモデルものなどを描いてたわけですが、読み切りで「青春の痛み」編をやってみようと思いまして。あんまり暗いと、読者は、シリーズで読みたいものじゃないらしいんですけど、読み切りで、50ページもらえたので。
 でも、本当のことをいえばBLって、せつないストーリーが、描きやすい土壌だと思うんですよ。だけど、いまは残念ながら、そういうストーリーがあんまりないですよね。くっつくか、くっつかないかがメインになってしまっていて。最後はハッピーエンドでもいいですけど、障害があって別れさせられたりとか。正直、読者の立場としては、それくらいつっこんだ話も、たまには読みたいですよね。
―― 『逆光線』の評判は、どうだったんでしょう?
立野:『逆光線』は、ほんとうに読み切りだからこそ、出しきったお話だったんだと思います。三人で心中未遂して、一人だけが消える、けっこう暗いラストなんですけど、好きだって云ってくれる読者は、『裏通りのシキ』同様、たった一回描いただけでもずっと覚えていてくれます。
 少女マンガは、いま、できれば明るくとかそういう方向に走っているけど、読者はほんとうはそんなことを気にしないと思うんですよね。
―― 涙の流せるものも…。
立野:好きだと思うんですよね(笑)。人の死とか…。
―― 女の子はナイーブなセンチメンタルな話が好きですよね。
立野:そう思うんですけどもね。少女マンガにしてもBLにしても。描き手も女で、読者も女の子で、女同士で、「せつないね~」みたいな世界。女の子にしかわからない世界。そういう感じのものも、もっと増えてもいいんじゃないかな。


二十年間続けたからいえること

―― もし、ランプの魔神が現れて、3つの願いをかなえてくれるとしたら、何を願いますか?
立野:まず、二十歳に戻してほしいですね。とりあえず、年齢を二十歳に。そして、そうですね、顔は仲間由紀恵に(笑)。それから最後の一つは、もうちょっと絵をうまくしてほしいですね。
―― 若くて美人に、というのは、女性の夢ですね。あと一つは、ふつうは財産に結びついてくるんですけど、財産ではなく、やはり絵、というところが、マンガ家さん独特の見解ですよね。
立野:これが一番、どうしようもないものなので。ちょうど今年で、私はデビュー二十周年になるんですよ。
 二十年間描いてきたからこそわかるんですが、努力して、絵がうまくなるって、一定の部分までなんですよ。描けば描くほどうまくなるときって、まだ下手な時代なんです。基本までは、努力すればうまくなります。でも、そこから先は、じつは、センスなんじゃないかな?
 すごくうまい人と、普通の人と、まあ下手な人がいたとして、普通に描ける人が、相当努力してもそれ以上はいけるもんじゃない。これはなにか、意識の改革とか、やり方を考えるとか、きっかけがあるとか、なにかが起こらないと、さらに上にいくっていうことは、正直ないんじゃないかと思っておりまして。二十年描いたからそのぶんうまくなるってことは、まずないですね。
 いま、けっこう、昔の作品集を出してもらっているんです。それで、過去の自分の作品を見直す機会があるわけですが、またね、時代によって、デビュー時より、下手なときもあるんですよ。自分では、わかってないんですけど、荒れてるんですよ、画面が。
―― 精神的なものが?
立野:うん。描きなれて、描きとばしてるのか、たんに下手になってるのかはわからないんですけど。デビュー時より、下手じゃない? っていうときもあって、でも、その次に描いているのは、もうちょっとマシになっていたりも。でもすぐあとに、絵が崩れちゃうなんてこと、私だけかもしれないですけど、あるんですね。
―― なるほど。
立野:おおむね描き直したいって思うんですが、下手は下手なりに、これはマシなんじゃないってときと、なんで前より下手になってるんだろうってときがあるんですよ。きっと自分が、一番厳しい批評家なんでしょうけどね。
 状況とか、精神的とか、体力的とか、いろいろな要因はあるとは思いますが、一定してうまくなっていくものじゃないんだな、って刊行するたびに、今改めて、発見してます。


私にできることは、描きつづけること

―― 読者は、細部よりは、全体的な印象をみてますよね。
立野:だからこそ、荒れるとわかると思いますよ。だから、なまけないで、描いていくしかないんですけども。でも、たぶん、スポーツ選手と同じなんじゃないですか。さぼったら、そのぶん体がなまるのと似てるんじゃないかな。
―― バイオリニストみたいな。三日さぼると一ケ月ぶん下手になるという。
立野:ほんとうにそう。描いてないと、下手になります。うまい方でも、描かないでいると落ちますよ(笑)。
 そう考えると、絵っていったいどこで描いてるんでしょうね。

―― 今回は、貴重なお話をありがとうございました。最後に、読者の方にひとことお願いします。
立野:お時間があるときでいいので、読んでくださったら嬉しいな。絶対読んで……なんていえませんが、お時間があるときに読んでいただければそれで十分だな、と思っています。そして、できれば、応援してください。

(おわり)


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