萬年テレビ亭
隔週月曜更新
テレビ丼
毎週月曜更新・連ドラ定食
「トリック」 
毎週水曜更新・連ドラ定食
「バスストップ」 「花村大介」
毎週金曜更新・連ドラ定食
「愛をください」 「合い言葉は勇気」


第3食●滝田栄の喰いッぷりバンザイ●


 突然ではあるが、俺は『料理バンザイ』(毎週日曜ヨル6時〜6時30分、テレビ朝日系)をビデオに撮って日曜夜のビールのお供にさせて戴いている。数ある料理番組の中でも、別段変わった事もなく平和に進行して行くこの番組は、連日ドラマ漬けの目と頭を『サザエさん』と共に文字通り『心の日曜日』として癒してくれるのだ。

 第884回を数える8月29日の放送のゲストは由紀さおり安田祥子姉妹。紅白歌合戦でトルコ行進曲を「ダバダバ」とスキャットするお姿を、酸欠になりそうで胸を押さえながら観た記憶がある御姉妹の作るお料理は、『パーティ料理にピッタリ! 生春巻き』と『さっぱり鍋』。
 実は、事前にテレビ誌の料理番組紹介頁で『生春巻き』と見た時から、少々気持ちは引いていたのだ。
 今から10年くらい前の事。赤坂の有名なベトナム料理屋に入って、一通りのオーダーを告げた後に、店のお姉さんからたどたどしい日本語で「生春巻きナンボン?」と聞かれ、答えに詰まると伝票に人数分の本数が書き込まれてしまったのだ。
「ニッポン人、まさかウチの店来てナマハル喰わずかな?」と威圧的に並んだ『敵』は、戻したビーフンと茹でエビ、生ニラと言う構成だったと記憶するが、ライスペーパーとビーフンの「米粉同士の存在主張」がモサモサした食中食後感を残すのみで、その場の一同、
「世界は広い。これが堪らなく美味いと感じる民族も居るのだろう」とワールドワイドな気分でぬるいベトナムビールを流し込んだ記憶があり、以来1度も口にしていない『苦手な食べ物』だからだ。

 だが今回『料理バンザイ』由紀さおりバージョンは、『サラダ感覚』と言うキャッチコピーが表す通り、メインはビーフンでは無く千切りレタス他野菜である。「まぁ、これは別物だな」と思いつつ、番組は本日のトークのメインらしい『お二人の母・房子さんは所属事務所の社長を務めていましたが、今年の5月に81歳で他界されました』とテロップが出て、「それは存知あげませんでした」と、興味は益々『生春巻き』から離れて行った。
 早速司会の滝田栄氏が、
「プロデュースって本当に愛の作業じゃないですか」と振って、
「子育てもプロデュースですよ。良いところも悪いところも知っている訳ですから」と由紀さおりさんが答えれば、
「その才能を見つけて育てて伸ばしてあげると…」等々、やや重いテーマながらも含蓄のあるトークで、火を使わずに『切るだけ』の下ごしらえは終了。滝田氏が姉妹の指南の元、結構はしゃぎながら自分でナマハルを制作して、
「おいしそ〜 自分で出来るんですねぇ。レストランに行くと1本幾らで値段が出てるじゃないですか? 結構なもんじゃないですか、ねぇ?」と、ひとくち食べていたく感嘆しておられ、そのお気に入りッぷりに姉妹も満足の様子だった。
「ほう? さぞかし稼いでいるだろうに、ナマハル1本の値段を気になさるとは?」と少し気にはかかったが、何かナマハルに特別な思いでもあるのだろうか? と思ったところで、もう1品、安田祥子さんの作った「さっぱり鍋」が煮えるまで、『たまに行くならこんな店』と、こちらも長寿コーナーの『お店紹介』VTRもあけて、再びスタジオへと番組は進んだ。

 ここからがゲストトークをメインの『食卓の余韻』コーナー。
 家庭で言うならば「爪楊枝でシーハーする父に眉をひそめる娘。お母さんはこれからイヤ〜な後片付けだ、よっこいしょ」的なひとときなのだが、番組ではここからが司会者とゲストの『料理は置いといて、さて本題は…』の大事なパートでもある。
「亡くなった母はコンサートで衣装のアイロンがけまでこなして、プロデュースから裏方までずっと支えて来てくれていた」との話しから、
「本当にアーティストとしての育ての親ですね」と滝田氏が振ると、
「1年3ヶ月の闘病生活が今はまだ記憶に生々しいですが」と前置きして、最後まで痛さを娘たちには見せなかった事や、いつもは「しっかりやってらっしゃい」と送り出していた母から、ある時「程々でいいから、早く帰って来て」と言われて、弱くなったのかな? と思いながらも病の母を置いて仕事に出る辛さは、
「我々だけではなく、看護なさってる方、皆さんそうですけど…」と、特権意識に偏らない常識的な発言に、北野たけし氏が母親の通夜の席でリポーター陣を前に号泣したシーンも記憶に新しい俺は、ふと田舎の母を想い出して、柄にもなく胸を詰まらせていた。
 すると、話し続ける由紀さおりさんのアップ、しんみりと頷く安田祥子さんとのツーショットの向こうから、「うん」「うん」と相づちに混じってもしゃもしゃとの音が混じる。
「うん?」と、少しひっかかるものの、滝田栄・49歳と由紀さおり・51歳ならばタメ口でも構わないかと自分に言い聞かせたのだが、スタジオ中がしんみとした空気の中、滝田氏は次なるナマハルを自主制作してワシワシ召し上がっておられたのである。
 もう一人の司会者・高樹沙耶さんは目を潤ませる姉妹の姿に胸を詰まらせたのだろう、相づちの回数も減っている中、口に入ったナマハルを噛みしめ、「うん」としかリアクション出来なかった滝田栄! ビデオを巻き戻して、確かに姉妹がしんみりと語るアップの横から具を取る滝田氏の手が伸びて、カメラを気にしつつも口一杯に頬張るカットを確認した瞬間、「観てはいけないものを観てしまったのか?!」と思う気持ちよりも、
「そんなに美味いのか…」と、俺の思考回路は『母の死を悼む姉妹』から『生春巻き』へと急激にシフトした。
 こんなにしんみりした空気の中でもつい手が伸びる『生春巻き』… 単に腹が減っているだけかとも思ったが、番組中に何度も見事な料理の腕を振るって来た滝田氏の舌はさぞかし肥えておられようし、仮にディレクターから『もっと食べて』と指示が出たとしても『亡き母の思い出話』の中、そう簡単に「もう1本」とは行くまい。
 テレビの料理番組における「美味さ」の優れた表現は、『器用に言語を並べ立てる』事よりも、『いかなるシチュエーションでもついつい食べてしまう』行為に勝るものはないだろう! と突き付けられた思いだった。
 その後、滝田氏は口の中に収まったナマハルをグッと飲み込んで、「このために来た」であろう『わが母が教え給いし歌』と言う姉妹の本とCDの宣伝&プレゼントを振って、次なる「さっぱり鍋」をさっぱりと口に運びつつ、番組は無事終了した次第である。


 これは作らいでかい! と料理が趣味の血が騒ぎ、大手スーパーでライスペーパーを購入して早速挑戦してみた。
 レシピ以外の具でも試みたので、興味のある方は、下記をご参照下さい。
 ありがとう、滝田栄。苦手な『生春巻き』を再び口にするチャンスと、長寿番組の司会の座を守り続けている所以を垣間見せて戴き、「なかなかおいしゅうございました」。

============<料理レシピ>============
●基本材料
・ライスペーパー 霧を吹きかけて戻す
・レタス…千切り/キュウリ…千切り/モヤシ…ひげ根を取って軽く下ゆで/万能ネギ…7pくらいに切る/玉葱…薄切り、水にさらす/ミント、バジル等香菜類/エビ類…茹でて半分に切る/市販のローストチキン…細かく裂く/ロースハム…千切り/ツナ缶…油切り/プロセスチーズ/錦糸卵
●ソース(全て適量で試してみる。よく混ぜる)
〈タイ風〉ナンプラー/砂糖/ライム
〈中華風みそソース〉甜麺醤/しょうゆ/ゴマ油
〈中華風ゴマソース〉ニンニク・生姜すりおろし/長ネギみじん切り/すりゴマ(白)/しょうゆ/酢・砂糖・ラー油
〈マスタードソース〉マヨネーズ/粒マスタード/塩こしょう/ゴマ油
●食べ方
 戻したライスペーパーを広げて、手前に好みの具を乗せ、左右から折って巻き、好みのソースでどうぞ。

●応用結果
・ソースはあまりゴマ油を使わない方が、味の違いが楽しめた。
・エビは生でもイケて、青身や白身魚の刺身を細切りしても美味い事を発見。付属のツマと共に、タイ風ソースで味わおう。
・香菜の代わりに、生ニラ(中間部分)を使っても良いが、この場合レタスはミスマッチ感があるので、パサパサ感の強い錦糸卵に頼った方が良いかも知れない。
・「サラダもやし」を生で用いれば、行った事もないベトナムの風が食卓に吹き抜ける思いだ。
・鶏の胸肉やささみは酒と塩を振ってレンジでチン、牛や豚なら塩茹でも美味かった(薄・厚切りどちらでも可)。
・レタスは白い芯の部分だけでも充分美味で、由紀さおり様曰く通りに『冷蔵庫の整理料理』なのだが、独身男には切るだけの下ごしらえが有り難い、手軽なエスニック料理だ。



構成・文/阪本 悠



日本文芸社のトップページへ萬年テレビ亭(テレビ丼バックナンバー)メールでの質問・お問い合わせ