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これでも私、存分にノリノリなんです・・・、特に鼻の先が。


第8食 ●真田“ノリノリ”広之 in 『D坂の殺人事件』●


 相変わらずドラマ漬けの日々を送る阪本であるが、最近は面白いCMがやたらと目についてテレビをつけるのが楽しみだ。
 残業する部下たちに、佐戸井けん太氏扮する上司がピザの出前の如く「パソコン取るぞ!」と声を掛けるコンパックのCMは、何度観ても『星獣戦隊ギンガマン』のギンガ・ブルー(照英)が「メモリ大盛り!」と言う度に、愚パソの前で「俺も!」と手を上げてしまう。
『動物園からパンダが逃げ出した』と言う『前代未聞』のニュースを見て「メシ喰ってる場合じゃない!」と冷蔵庫に『何故か常備されているクマ笹』とウィダーインゼリーを持って走る木村拓哉氏のCMは、ストレートにワニやサイに追いかけられる前作とは趣が異なって『笑いどころ』が刺激される。
 そして、舞妓さんたちと踊る真田広之氏が、ターンの度に気合いの入った『2回転ひねり』を披露して『ノリノリどすなぁ〜』と言う豆奴嬢に『ぜんぜん?(膳、膳)』と応える『和イスキー・膳』のCMも、前々作の『今度生まれ変わったら、絶対一緒になりたいよね』と言う栗田麗嬢に『いや、ぜんぜん』、『あの頃が一番楽しかったわね』の中川安奈嬢に『いや、ぜんぜん?』と、その『女ったらし』(死語か?)っぷりを想像させるコンセプトから『自ら躰を張る』と言う一歩踏み込んだ展開で、目下『お気に入り』のトップワンである。
 そんな真田広之氏だが、最近では『不倫亭主』っぷりを暴露されて開き直る奥田瑛二氏が世間を騒がせたり、トーク番組で葉月里緒奈嬢にあっさりと『過去の人』扱いされたり、映画『リング』『らせん』に出演するものの話題は『貞子』に集中したりと、テレビでは御無沙汰感が強いのだが、実は昨年公開の映画『D坂の殺人事件』で『ノリノリ』な主人公を怪演しておられるのだ。


 原作は言わずと知れた江戸川乱歩。監督の実相寺昭雄氏は、TBS社員時代は『ウルトラマン』の変身シーンにカレーライスのスプーンを用いて謹慎を喰らった後、『ウルトラセブン』ではメトロン星人セブンをボロアパートの一室でちゃぶ台挟んで正座さるなど、当時の少年たちの心に『笑いのセンス』を刻み込んだ御仁であり、近年ではオペラ演出と気まぐれ? にAV監督もこなす異才で、『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』('94 主演:三上博史)に続く、嶋田久作演じる『明智小五郎があまり活躍しない』シリーズの第2弾となる。
 物語は、美術品の天才贋作師・蕗屋清一郎(真田広之)が、古本屋『粋古洞』の未亡人・須永時子(吉行由美)に『伝説の責め絵師』大江春泥・作『不知火』の贋作を依頼される。見事に“ふたつ”の贋作を仕上げた蕗屋は“本物”を焼き捨てて納品。その出来映えに満足した時子は、次に本物が実在しない『明烏』の製作を発注する。吉原の遊女“浦里”が折檻される場を、当時の『専属モデル・“お蝶”を攻め抜いて』描いたと言う『明烏』のモデルとしてカフェの若い女中・花崎マユミ(大家由祐子)が送り込まれて来るのだが、期限が迫っても蕗屋の筆は一向に進まない。
 業を煮やして「こっちの筆がスッキリすれば…」と迫らせるものの、元来なのか作品へのプレッシャーからか『スッキリする気配』を見せない下半身に呆れたマユミは冷笑しながら帰って行く。
 だが、鏡に写ったマユミの紅白粉が付着した自分の顔に“着目”した蕗屋は、自らをモデルに幻の『明烏』を完成させるのだが、この倒錯した“創作過程”に没頭して行く真田広之氏は、正に『ノリノリ』なのである!
 徹夜続きの潤んだ瞳で唇に紅を伸ばし、緋色の長襦袢姿にほどけた日本髪のカツラを着装。自ら縛り具合を鏡で厳しくチェックした蕗屋は、表情を作って絵筆を走らせるが、『想像の神』に取り憑かれた厳しい表情と女装のミスマッチには圧倒される。
 作品が完成に近づくにつれて鏡=カメラに向かって襦袢の胸をはだけるわ、白粉むらなどもろともせずに恍惚の表情を『これでもか!』と言わんばかりに見せつけるわの『ノリノリ』ッぷりは、後に起きる殺人事件の『動機』を充分に納得させると同時に、『役者魂=ナルシズム』を見せつけられた思いで、他人事ながら「俳優とは因果な商売よのぉ〜」と同情の念まで抱いてしまった。
 同じ絵師を演じた『写楽』('95松竹 監督:篠田正浩)では、元大道芸人との設定でバク転を披露。「そう言えばJAC(ジャパン・アクション・クラブの略)出身だったなぁ」と思うものの、存在感が希薄に感じた真田氏だったが、『とうの立った女装男』を水を得た魚の様に演じる姿には、「ノリノリどすなぁ〜」と言いざるを得ないのだ。

 そして物語は、『明烏』を見事完成させた蕗屋は自信満々で『粋古洞』に納品するが、若き日の時子が春泥のモデルを務めた“お蝶”だった事を知ると、彼女を絞殺。第一発見でその場の現金を盗んだ従業員の斎藤(齋藤聡介)が容疑者として逮捕されるが、予審判事・笠森(岸部一徳)の調べにより、蕗屋もまた嫌疑をかけられる。そして名探偵・明智小五郎(嶋田久作)に追い詰められて、
「贋作を2部こしらえると、ひとつを本物とし、原本を焼いてしまう… それが私の流儀さ。驚いたな… あの女将がお蝶さんである事が解り、私は心底驚いた。私自身がお蝶さんの贋作ならば、本物はこの世にあってはならない… あの女を生かしておく訳には行かなかったのさ…」と自供する蕗屋=真田広之氏は暗い目に宙に泳がせるが、前半の『ノリノリ』が効いているだけに、その瞳の奥に秘められた時子に対する激しい嫉妬の念が否応なしに伝わって来る。
 そして、逮捕された蕗屋の仕事場で、
「でも正直言って、僕には犯人の気持ちがよくわからない。頭では理解出来てもね」と言う明智小五郎役も、2バージョンで話題を呼んだ『RAMPO』('94 松竹 監督:奥山和由黛りんたろう)の本木雅弘氏では『犯人の気持ちが痛いほど解って』しまいそうだが、嶋田久作氏ならではの説得力だと大きく頷ける。
 そんな明智に「僕はとてもよくわかるような気がします。口では上手く言えないけれど、僕には犯人の気持ちがとてもよくわかるような気がするのです」と応える小林少年(三輪ひとみ)が、こっそりと蕗屋が纏った緋色の長襦袢を羽織り、鏡に向かって紅をさすと怪しく微笑んで… The End。と相成る訳で、小林少年役を美少女・三輪ひとみ『嬢』でお茶を濁された事が何とも残念だが、真田広之氏の『ノリノリ』に対抗出来うる美少年が居なかったのだろう… と敬意を表して目を瞑る事にした。


 原稿を書くに当たって、再び見直した『D坂の殺人事件』だが、昭和弐年当時の往来や建物の外観を全てペーパークラフトで代用するアイディアは低予算を逆手に取ったお洒落さが際だち、監督お得意のアップの多様、90分と言うビデオを意識した尺等々、テレビで観ても充分に楽しめる作品だ。
 秋の夜長に熱燗ならぬホットウィスキーでも舐めながら、真田広之氏の『ノリノリ』ッぷりと共に乱歩の世界を堪能するのもオツなものである。

============<作品データ>============
『D坂の殺人事件』('98東映ビデオ/東北新社・ビデオ:東映ビデオ 90分)

製作:黒澤満、植村徹
企画:大木淳吉、小坂恵一
プロデューサー:一瀬隆重、石原真、宍倉徳子
原作:江戸川乱歩『D坂の殺人事件』『心理試験』(新潮文庫「江戸川乱歩傑作選」所収/倉元推理文庫/春陽文庫)
脚本:薩川昭夫
監督:実相寺昭雄
撮影:中堀正夫/音楽:池辺晋一郎/照明:牛場賢二、丸山文雄/美術:池谷仙克/録音:福岡修 編集:西東清明
企画製作協力:オズ/コダイ
【出演】真田広之・嶋田久作・吉行由実・大家由祐子・三輪ひとみ・齋藤聡介・小川はるみ・寺田農・堀内正美・東野英心・広瀬昌亮・岡野進一郎・原知佐子・六平直政・岸部一徳


構成・文/阪本 悠



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