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第16食 ●深夜の優良教育番組『平成日本のよふけ』●


 フジテレビで月曜深夜放送の『平成日本のよふけ』なる番組を皆様は御存知だろうか? 昨年9月までは『鶴瓶、南原の日本のよふけ』とのタイトルが示す様に、笑福亭鶴瓶氏と南原清隆氏が司会を務めていたトーク番組だが、30代代表の南原氏が卒業後、20代代表の香取慎吾氏が変わって今日に至っている。
 御存知ない方の為に概要を少々。『赤さん』なる2歳児なれど偉そうな物知りのキャラクター人形が、毎回何らかのテーマで括られたゲスト3名のプロフィールを紹介。司会のお二方に「どの人に会いたい?」と関西弁で希望を募るものの、その意見は反映される事なくサックリと本命ゲストが登場すると、『逃がさんでぃ』と言わんばかりに狭いソファに着席。お二方に挟まれたゲストが大いに語った後に、「日本の若者たちへの一言」をもって番組は終わる… と言う内容だ。
 歌や踊り、ゲームがある訳でもない実にまっとうなトーク番組なのだが、まずゲストが面白い。ゴールデンのトーク番組の様に有名芸能人が番組や映画、舞台、出版物やCD発売に合わせて宣伝の為に登場する事は、まずないのだ。
 日本の政治や経済、エンタティメントを支えて来られた各界のスペシャリストの皆様が、己の豊富な経験と知識を語って下さると言う、マジでタメになる番組である事はこの阪本が保証する! と言いつつ、実はビデオストックを誤って潰すと言う失態を演じている訳で、記憶に残るゲストのみ挙げさせて戴くと、政治家・鳩山由起夫氏、映画界で撮影監督の地位を確立したカメラマン・木村大作氏、元某組関係で現在は画家の山本集氏、VANで一世を風靡して同社を潰した石津謙介氏、ソニーでウォークマンの開発に当たられた黒木靖夫氏、カラオケを発明したにもかかわらず特許を取らなかった奇特な方等々… 成功した人や失敗した人、有名人から全く知らない人と多種多才な人選も深夜ならではの魅力だろう。
 そんな『日本のよふけ』ファンの俺にとって2月のラインナップは実に興味深かった。


 2月1日放送のゲスト・日本音響研究所々長の鈴木松見氏は、元警視庁科学捜査官時代にグリコ森永事件、フィリピンのアキノ氏暗殺事件の事件解明に携わって来た方と聞いて俄然興味が沸いた。何故かと言えば、昨年『萬年テレビ亭』でお世話になった『らせん』の第3話に少しだけ登場した『音の捜査官』さんだからであり、少なからずその職業に興味を抱いていた俺は、ビデオ録画を確認しつつ、オンタイムでテレビの前に座ってしまった。
 当然の様に最後の時効成立を間際に控えたグリコ森永事件からトークは始まる訳で、持参したラジカセで現金引き渡し場所を指定するテープを流す際に、わざわざ息子さんを呼んでスイッチを押させるあたり、
「眼光鋭いものの、家族想いの結構良い親父さんじゃないか」と好感が持てた。が、原稿を読まされている子供の声を分析して、該当者であろうと絞り込んだ家を訪問するに到った話には、いきなりグイグイ引き込まれてしまった! 僅かに聞こえるグレーチングなる金属板を車が踏む音や方言から、録音された部屋の間取り、マンションの高さ等々を全て反響等の計算で場所を絞り込んで行くいきさつはただただ驚くばかり。しかも、新聞勧誘員として実際に本人に会った事、別の捜査員が学習塾のアンケートと称して声を録音した件に到っては、フィクションだけにドラマ顔負けのスリルとサスペンスに溢れ、テレビの前で手に汗を握ってしまった。
 勿論皆様御存知の様に、事件は残念ながら時効を迎えてしまった訳で、そこには様々な事情があったのだろう。しかし、自分の割り出した子供が犯人逮捕に結びつかなかった鈴木氏の無念さとやり場のない怒りは、収録時の画面からも充分に見て取れて少々身震いがした。
 その後に自殺の名所である踏み切り音を解説して、会場の女の娘たちを「キャー」と軽く怖がらせた後に、アキノ氏暗殺の真相に迫る話しも実に興味深かった。
 当時の住まいである山梨県の上野原付近に怪しい外国人やら黒服やらがウロウロしていたクダリは、まさに映画そのもの。
 そんな危険にさらされながらも何故フィリピンまで乗り込んだのか? と問う鶴瓶氏に、当時40歳そこそこの自分を振り返って、好奇心と正義感の成せる技だったと言う鈴木氏の動機に嘘偽りはないだろう。何故なら職種を問わず割に合わない仕事に従事する人間は、大概好奇心旺盛かその仕事が好き、またはその仕事しか出来ないと思っている人種であるに他ならないからだ。
 そして「日本の皆さんへ」と促されて、好奇心の塊でここまで来たと前置きした上で『何故?』をいくつになっても忘れないで欲しいと言う鈴木氏は、会場の若い娘さんたちに向けて、子供を育てる際には、どうか我が子の好奇心の芽を摘まない様にとのメッセージを、締めの言葉とした。
 司会の鶴瓶氏と香取氏は、「時間が足りな過ぎる」と口を揃えて番組は終了。テレビの前で、
「おいおい出来過ぎじゃないか?」と思わず呟く程に、見事な構成の30分だった。

 翌週のゲスト、故岡本太郎氏の妻でありながら戸籍上は養女である岡本敏子女史は、
「あの方にしてこの人あり」と納得させられるハイテンションな方で、亡き太郎氏を終始褒めちぎり状態! そこまで惚れられれば男冥利に尽きるだろう。
「好きと言葉で言わなきゃならない恋なんてしない方がマシよぉ」と頼もしい敏子女史の「日本の皆さんへ」は、やはり会場の若い娘さんたちに、彼氏が一見破天荒な事をやろうとしても、否定的にならずに面白がってけしかけた方が絶対に楽しいとのメッセージを残された。これは鈴木氏の「好奇心の芽を摘むな」に共通するのだが、バカをやり続けて今日に至る身としては、止めてくれる女が居ればもう少しまともな人生だっただろうか? と真剣に考えてみた。だが、止める声など耳に入らないのがバカのバカたる由縁! 敏子女史は正しいと改めて納得した。

 そして先週のゲストは『死体は語る』の著者でもある、元東京都観察医院々長の上野芳彦氏。
「解剖した死体は二万体、死体を知り尽くした男。因みに腹上死も五百件診てはる」と『赤さん』に紹介された上野氏は、同名コミックが原作のドラマ『きらきらひかる』や刑事物では馴染みの深い『監察医』のエキスパートだ。
 実にソフトな語り口で、死体は雄弁であり犯人がいくら虚偽の証言を試みても、死体は真実を語る訳でそれを聞くのが私の仕事… と雄弁に語られる。
 当然の様に事件のニュースを聞いただけで事故か事件かが解ると言う上野氏は、メッタ刺しやバラバラ事件は残忍性ではなく、反撃されたくない、逮捕されたくないと言う保身性のなせる技と説明、更に死体の網膜に残った犯人の残像を取り出す事が可能だとの話題にまで到った。そして、
「理論的にはですよ。実際出来たらノーベル賞ものですよ」と笑って見せて、香取氏に握り拳を作らせて会場を沸かせると言う、お茶目な一面も覗かせる。
 そんな上野氏は「日本の皆さんへ」とメッセージを求められると、生に向ける医学ではなく死から逆算して生の最期を分析する法医学は、逆転の発想であると説明。簡単に「キレて」事件を起こす青少年に向けて、今一度縦横斜めから物事を捉えて、決して悲観的な行動に走らないで欲しいと結んだ。


 うむむ… 素晴らしい。全く仰る通りだとしか言い様がない! といたく感動して、この原稿を書くに当たって改めて以上の3本をビデオで続けて観直す事にしたのだが、やはり『悪いことをしてはいけない』とのストレートなメッセージを打ち出した鈴木上野両氏のお話しと構成の素晴らしさは、警察の不手際が報道される昨今において、実に印象深い。
 確かに犯行に到る動機や、犯人を取り巻く社会現象を検証する事も大切だろう。だが、音の捜査官・鈴木松見氏と、死体と対話し続けた上野芳彦氏のお話には、
「こんなにバレてしまうのか!? 悪い事は出来ない」とテレビの前で思わず背筋を伸ばすと同時に、
『悪い事をしたらお巡りさんに連れて行かれるよ』と幼い頃に親に言われた、至極当たり前の事を懐かしく思い出してしまった。
 いやはや、前々から面白い番組だとは思っていたが、一連のごもっとも攻撃にすっかりヤラれてしまった『平成日本のよふけ』は教育テレビも顔負けの清く正しい番組だぁ!! と勢いづいて、以前から抱く素朴な疑問にお答えいただくべく担当者にお伺いを立ててみた。

 まずは、何故ひとりしか登場しないゲストに対して毎回三択構成にしているのか? については、『赤さん』と司会者の素のトークから始める事で、バラエティ色を強調するための大切な『掴み』だとの御回答。登場する事のない他の2名に関しては、出演ゲストが決まった時点でテーマ軸を設定して、写真パネル使用の許可を得て放送に到るとのお答えを聞いて、俺はかなり驚いてしまった。
 冒頭テロップで紹介される通りに、司会のおふたりは本番まで本物のゲストを知らされていないとの事実は『やらせ』は『演出』とまで言われる昨今において、マジで奇特な事だと感心する。しかもゲストの流暢なトークが司会者との打ち合わせなしで行われている事には、もっと驚いてしまった訳で、特にトークが達者な方をチョイスしている旨をお訊ねしたが、
「特に意識しておりません」との事。いやいや、日本を支えて来たスペシャリストたるもの、30分番組で話が続かない訳がないと言う事か、と益々頭が下がる思いだ。
 次に、何故狭ッ苦しいソファに肩を寄せて座るのか? については、
「親近感を増す為の演出。狙いです」と、期待通りの真っ当なお答え。
 そして、番組HPにも数多く寄せられている、再放送、総集編、ビデオ並びに書籍発売の予定に関しては、
「今のところ、一切ありません」とキッパリ! 余程問い合わせが多いのか、あまりのキッパリ具合に理由を聞くのが野暮に思えて、次なるちょっと意地悪な質問へ。
『笑う犬の生活』と同じ製作スタッフなので、ゴールデン進出予定は? との問いにも、深夜番組のスタンスを守ってこのまま続ける旨の潔いお返事が帰って来た。

 と言う訳で、深夜枠ならではの自由な発想に拘って、あくまでも楽しく肩が凝らずに、しかも実にタメになる『平成日本のよふけ』は、
「こないして作られてるんかぁ〜」と納得しつつ、香取慎吾氏の若いファンから、毎回登場するゲストに限りなく年齢が近い俺達オジサンも楽しめる番組だと今一度声を大にしつつ、今夜のゲストはどんなジャンルのどんな人が登場するのか? 司会のお二方と共に楽しみに待つ事にしよう!


============<番組データ>============

『平成日本のよふけ』

放送日:毎週月曜日深夜0:45〜1:15(フジ系)
プロデュース:小松純也
構成:倉本美津留/木村祐一/乙川恒樹
リサーチ:高野順二
制作協力:DENNERsystems/ジャニーズ事務所/ウイルスプロダクション/Bits
ディレクター:市島晃生/宮道治朗
プロデューサー:吉田正樹
司会:笑福亭鶴瓶/香取慎吾


構成・文/阪本 悠



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