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| CLIP:01 『空想科学[漫画]読本』
著者:柳田理科雄(空想科学研究所主任研究員) ISBN4-537-25039-9(定価:本体1200円+税)
柳田理科雄の最新刊! ついに発刊! 空想科学界の第一人者が“漫画”を徹底研究! ●内容紹介● 【第1部●根性の連立方程式】 『キャプテン翼』 高橋陽一 若林くんの高すぎる能力は、 試合で活かせそうもない! 『キャプテン翼』はサッカー界に多大な影響を与えた。Jリーグにも、翼くんや岬くんにシビレて育った選手は多いと聞いている。 ところが、翼くんとその仲間たちの活躍ぶりを力学的に解析すると、シビレを通り越して驚愕を覚えることすらある。例えばP63のコマだ。 西ドイツのカール・ハインツ・シュナイダーが、フリーでゴールエリアに突入。迎え撃つ若林くんはヤマを張って左へ飛ぶが、ボールは低い弾道で右隅へ。ああ、万事休すか、と思いきや、なんと若林くんは、とっさにゴールポストを蹴って右へ飛んだ……! ワールドカップでも見たことがない超絶プレーだ。若林くんとは、いったいどんなレベルの選手なのか? ボールより速い! シュナイダーがシュートしたのは、ゴール前にある2つのラインのほぼ中央だ。ゴールまでの距離は10mとしていいだろう。『打つ科学』(平野裕一/大修館書店)によれば、サッカーの大学生選手のシュートは、およそ秒速30m=時速108kmだという。中学生とはいえ西ドイツの代表選手なのだから、シュナイダーのシュートはもっと速かったかもしれない。しかし、このスピードだと仮定してさえ、ボールがゴールに突き刺さるまで0・35秒。若林くんに与えられた時間はあまりに短い。 しかも、この時間がすべて若林くんの自由になるわけではない。人間が外界の刺激に反応してから行動を起こすまで、最短でも0・2秒かかる。これは、感覚器官が受けた刺激や大脳からの命令が神経を伝わるのに要する時間であり、鍛えても短縮することはできない。つまり若林くんは、0・15秒でコーナーを蹴り、逆方向に飛ばねばならないのだ。これには、どれほどのスピードが要求されるのか? ゴールポスト間の距離は7m8cm。左に向かって走ってきた若林くんは、ジャンプしてゴールポストを蹴り、体をグッと沈めて筋肉に力を溜め、全身を躍動させる。彼の身長を1m80cmとすれば、そこから5m28cmジャンプすることによって、ゴール右隅のボールに手が届く。このとき、若林くんがポスト上で腰を60cm落とすとすれば、ジャンプ動作に0・02秒費やすことになる。残った0・13秒で5m28cm飛ぶための速度とは、時速180km。うお、速いッ! 若林くんはどこへ? これはもう、アキレんばかりの運動能力だ。若林くんの体重を70sとすると、この瞬間に発揮した筋力は15t。ボールを蹴るのに同じ脚力が発揮できるとすれば、ボールの速度はマッハ1・2、最大飛距離は17kmとなるのだ。自軍のゴールから敵ゴールを打ち抜けるのはもちろん、敵のキーパーが止めようものなら、ライフル弾16発分の衝撃を受けて倒れ伏す! なんとも頼もしい攻撃型のキーパーだ。 しかし、コマに描かれた方法で、本当に若林くんがシュナイダーのシュートを止められるかどうかは疑問である。時速180kmのジャンプ力があれば、ボールがゴールに飛び込む前にゴールの反対側に到達することはできる。しかしコマをよく見ると、若林くんは仰角20度ぐらいで飛び出してしまっているではないか! この角度では、ゴールの反対側に達する頃には1・9mも上昇する。地を這うシュートを下界に望みつつ、ゴール右上を斜めに横切る若林くん。敵の歓声と味方のため息を、どんな気持ちで聞くのだろうか……。 悲劇はこれにとどまらない。その後も若林くんは放物線を描いて上昇し、やがて落下する。滞空時間は3・7秒、着弾距離は186m。なんと、観客席のかなり後方に突き刺さるか、スタジアムを飛び出してしまうのだ[図5]。これはもう、サッカー選手としては、筋力がありすぎる! かといってジャンプ速度を落とすと、ボールに追いつけない。残された道は、もっと低く飛ぶことだけだ。若林くんはポストの真ん中あたりを蹴っているが、地を這うシュートを止めたかったら、地面ギリギリを蹴って水平に飛んだほうがいい。 ただしその場合、ボールをキャッチしたあと地面を時速180kmで滑り始めることになる。土煙を上げつつ滑りに滑って、停止するのは250m彼方。実際には、観客席のフェンスに頭から激突……。若林くんにとって、サッカーコートはあまりに狭い! 喋りすぎだと思う だが、超人的なのは若林くんだけではない。コマをよく観察すると、もう1人の超人の姿が浮かび上がってくる。 それは、実況しているアナウンサー。シュートしたボールがゴールに突き刺さるまでの短い時間に、78文字も喋ってるぞ! これはいったい、何秒間に発せられたセリフなのか? ヒントになるのは、人物やボールの動きを表す流線だ。絵画には流線がないが、漫画にはある。思うに、絵画が限りなく0に近い一瞬を捉らえるのに対して、漫画とは時間の経過まで1コマに凝縮するものなのだろう。すると、流線の長さは、そのコマで経過した時間の長さを表すと考えていいのではないか? ボールの流線と、クロスバーを延長してみると、現在ボールはゴールまでの中間地点を飛行中であることがわかる。すると、コマのなかでは、0・35秒の半分に当たる0・175秒が経過しているわけだ。 この間に78文字なら、1秒で441文字。ドストエフスキー作『罪と罰』の新潮文庫版は40字×17行でおよそ1500ページだが、この大作をなんと38分32秒で朗読できるのだ。機関銃のような早口という言葉があるが、米軍の機関銃M249SAWだって1秒間に17発。本物の機関銃の26倍なのだから恐れ入る! プロのアナウンサーは、400字詰め原稿用紙を3分で読むように指導されるという。このアナウンサーがしゃべるスピードは、その200倍。こうなると、普通の人間には、もはや聞き取れまい。じゃあ、この実況は誰のために……!? いずれにしても、あまりに能力が高すぎて、本来の目的が果たせない『キャプテン翼』の人々。敬服するばかりである。 *都合により当ホームページ上では図版等を割愛しております。詳しくは本書をご覧下さい 当商品は、全国の書店、コンビにでお求め下さい。また、弊社ホームページ『にちぶんBOOKSHOP』からもご注文いただけます。 →ご注文はこちらから | ||||||
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