「だめ連」の中心的人物とでも言っていい(だめ連には特に代表とかはいない)神長恒一さんと一日行動を共にすることになった。神長さんの1週間の日記の二日目・3月9日(火)に彼の最寄りの駅・新井薬師前に降り立った。
午後1時、彼が起きる頃である。昨日は暖かったのに、今日は氷雨の降るあいにくの空模様だ。
待ち合わせのコンビニに行く。待つこと10分、神長さんが現れる。
「遅れてすみません!」「いやいや、遅刻なんか気にしちゃいけませんよ。だめ人間なんだからあ!」と思いっきり失礼な僕。
神長さんは、そのコンビニの公衆ファクスで出版社に原稿を送る。200円也。
「この200円は後で出版社から返してもらうんですよ」とファクスのレシートをしっかり握りしめる神長さん。
ウウム、原稿を送ったファクス代を請求したことのない当方はここで先ず目からウロコである。出版社からの原稿依頼なんだから、これからは俺もファクス代を請求…いやあ、そんなことしてたら仕事なくなるって。でも神長さんは堂々と請求する。僕はこれで先ず一本取られた。
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朝食ってことで、コンビニの向いのスーパー丸正へ。
あれこれ悩むこと15分。彼は食料を買う時、常に量が多くて安いもの=コストパフォーマンスを考えている。
寒いので近くのラーメン屋に行くアイデアも出されたが、結局、厚あげとハムカツを1個づつ計136円のお買い上げだ。俺も腹が減っていてお弁当を買おうと思ったが、彼の見事なまでの金の使わなさ加減に驚き、おにぎり二個にしてしまった。それでも210円。くそっ、不覚、ここでも1本取られてしまったか(って妙に競っている僕)。
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アパートを出ると、よほどお腹が減っていたのか厚あげにかぶりつく神長さん。その姿は原宿でクレープを食べながら歩くおしゃれさんたちに似ていないこともない(って無理がありました、すいません)。
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ところで、ここで神長さん豆知識その一。彼が毎回のようにハムカツのような揚げ物を買うのにはちゃんと理由がある。それは揚げ物は油を大量に含んでいるので時には胸焼けを起こします。神長さんはその効果を逆手にとって、だから揚げ物は満腹感が得られるのでグッドだなんて言う。さすが何年もダメ生活を送っていない、恐るべし、神長恒一である。
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4畳半一間の彼のアパートに着く。テレビにビデオ、10年前に買ったラジカセとカラーボックス、机代わりのこたつ、万年床、そして電話それに押し入れに少々の衣服が彼の全財産だ。
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この生活に入る前は滅茶無茶軟派だった神長さんは洋服もブランド好きだったと当時のコレクションを披露してくれた。キクチ・タケオのスーツなどを出しながらバブリーな時代だったなと感慨しきりの彼。傑作なのは趣味の野球のユニホーム、なんとTシャツにマジックで名前や縦縞を書き込んだものだった! 履物はいつでもどこへでもビニールサンダルである。くたびれてきたら居酒屋で間違えたふりして履き替えてくる!
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雑誌を読みたい時はもちろん立ち読み。本やCDは図書館で借りる。今借りてるCDは「マイルス・デイビス」や「サイキックTV」など。本は「老人力」や寺山修司の「家出のすすめ」など。彼は無類の寺山ファンでもある。
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ひと月に使うお金で一番大きいのがアパート代2万4千円。頻繁に電話がかかってくるので、電話代もと思ったが、こちらからはあまりかけないので3千円位だそうだ。僕の携帯が電池切れになり、3度ほど電話を借りる。「すいません、100円いただけますか」と神長さん。ウウム、しっかりしてます。
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| 「お風呂はいかないんですか」と僕。「そうか、今日行ってもいいかなあ…」。「え、毎日行ってない?」と僕。風呂は1週間に一度、洗面歯磨きも3日に一度位なんだそうだ。今どきこれは凄いと思う。毎日の朝シャンから始まる近ごろの若者がこうした神長的生活をしろと言ったら卒倒するだろう。そういえば、昔、家に風呂のなかった時代は毎日風呂に入らなかったものだ(って言っても1週間はなかったかなあ…)。
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こうして、神長さんのダメ的生活を見てくると、実はダメとは言うものの、この暮らしぶりは決してダメではないんではないかと思えてくる。
彼が会社を辞めたのは仕事に費やす時間が惜しかったから。圧倒的な余暇が欲しかったのだ。本を読む、音楽を聞く、人と交流することを優先したかった。それを仕事で潰されるのが嫌だったのだ。お金は使わないが、しかしたっぷりとある時間のおかげで豊かさを感じている。多くの人が会社であくせくしている昼間に好きなことをしている神長さん。
「ああ、こんな昼間っからこんなことしてていいんだろうか」なんてことは決して思わない境地。それより、「ああ、昼間からゴロゴロできるなんて最高だ!」って歓びがこみあげてくるのだ。これを「ダメ連」的には「ダメの恍惚派」とよぶ(笑)。
ダメ、ダメと言いながら、彼のダメにはパワーがみなぎっている。史上最悪とも言われる不況のなか、ダメの神長さんは元気である。この不況を脱するヒントが得られるかもと、経団連から講演依頼が来そうだ、なんていう噂もあるほどだ。
もしかして、世紀末のダメなニッポンを救うヒントが、神長恒一さんたちダメ人間たちに隠されているのかも知れない。
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